100年 MUSIC featuring Artist

Vol.2 Nile Rodgers

「自身と日本の復活の思いを込めて」

 ナイル・ロジャースが来てくれた。
余震と原発問題で多くの海外アーティストの来日公演キャンセルが相次いでいた4月、しかしナイル・ロジャースは来てくれた。
しかも、前立腺癌の手術を1月に行なったばかり(昨年癌であることがわかり、1月14日に自身のブログやフェイスブックなどで公表した)。リハビリテーションを続けるなか、手術後初めてとなるライヴの地として当然のように日本を選び、いつにも増してポジティヴな気持ちの伝わってくる力強いショーを見せてくれたのだ。
シック フィーチャリング ナイル・ロジャース。昨年の来日公演と同じく(ナイルを含んだ)9人からなる"現在進行形シック"のショーは、のっけからパーティ・モード全開。みんなが知っているシックのヒット曲と、ダイアナ・ロス「アップサイド・ダウン」、デヴィッド・ボウイ「レッツ・ダンス」、マドンナ「ライク・ア・ヴァージン」といった"プロデューサー、ナイル・ロジャース"としての代表曲を織り交ぜてのステージは、ポップとファンクの合わさり加減も絶妙で、観客を総立ちにさせた。因みに今回の日本ツアーは、シックのベース・プレイヤー、バーナード・エドワーズとのラスト・ステージとなった「JT スーパー・プロデューサー」(1996年4月に日本武道館と大阪城ホールで行われたナイル&シックを中心としたライヴ・イベント。バーナードは公演後に東京のホテルで息を引き取った)からちょうど15年を数えるもの。亡きバーナードのこと。自身の癌のこと。そして震災後の日本のこと。万感の思いを込めたナイルの復活ステージは、会場に足を運んだ人々に計り知れないほどの元気を与えたのだった。

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Nile Rodgers
――「JT スーパー・プロデューサー」での来日公演から早いもので15年が経ちました。15年の間には本当にいろんなことがありましたね。
「ああ。白髪も増えたし、癌にもなってしまって(苦笑) それに多くの友人を失いもした。真のミュージック・パートナーだったバーナード(・エドワーズ)を始め、シックの仲間をふたりとも亡くしたし、ルーサー・ヴァンドロスも他界した。信じられないよね」
――インタビューを始める前に、まずはお礼を言いたいんです。震災で日本がたいへんなことになり、今も余震が続いているし、原発問題もあって多くの海外アーティストが来日をキャンセルしている。そんな中、あなたは手術後まだ数ヶ月だというのに、こうして来てくださり、コンサートを実施してくれた。あなたの力強い演奏に、本当に多くの音楽ファンが勇気づけられました。
「いや、僕のほうこそ日本に来れたことを嬉しく思っているんだ。こういうときだからこそ、僕は日本に行かなきゃいけないと思った。日本以外の訪問先など考えられなかった。今日本に行くということが、僕にとって最も大事なことだと思ったんだ」
――本当にありがとうございます。実際にライヴをしながら、お客さんが心底喜んでいることを肌で感じていたのでは?
「うん。信じられないくらいにね。予想していた以上にすごい反応だった。驚いたのは、各ステージのあとに、今まさに癌と闘っている人や癌を乗り越えたファンの人が楽屋に来てくれたこと。ハグした際、こっそり僕に打ち明けてくれたんだよ。なかには入院中で会場に来られなかった癌患者の友人の代わりにメッセージを伝えてくれた人もいた。昨夜も2ndショーを終えて楽屋に戻ったら、ふたりの女性がいてね。ひとりは津波で母親を亡くした女性で、"とても悲しい出来事だったけれど、今日のコンサートに来ることができて本当によかった"と言ってくれたんだ。その彼女と一緒にいた女性は、ちょうど1週間前に癌の手術を終えたことを教えてくれた。それがどれだけたいへんなことか僕は身にしみてわかっているから、抱き合いながら一緒に泣いてしまったよ」
――今回は今までとはまた違った気持ちでステージに立っていたんじゃないかと思うのですが、どんな気持ちで演奏されてましたか?
「正直、すごくたいへんなことではあるんだ。元の状態にまで戻すのに1~2年はかかるらしいんでね。具体的な話をすると、手術で前立腺を除去したあと、余った場所で臓器が動きまわるのが辛かった。僕の場合は前立腺のサイズが同じ年齢の男性の2倍もあったらしく、通常とは違ったらしい。で、例えばこうして座っていても、立ちあがった途端に尿意を抑えられなくなる。だからライヴ中も"トイレに行きたくなったらどうしよう"って心配があってね。前立腺の除去により尿を塞き止められなくなったから、尿漏れ防止のために膀胱を鍛えるトレーニングを1年続けなきゃならないんだ。まあそんな状態ではあるんだけど、それでもステージに上がってお客さんが楽しんでくれているのを観ると、幸せな気持ちになる。それはほかの何にも代えがたい素晴らしい気分だね。毎回観に来てくれている古くからのファンや友人に会えるのがすごく嬉しいし、今回は"初めてシックを観た"という若いファンがたくさんいたことも嬉しかったよ」
Nile Rodgers
――今回のショーでもシックのハッピーでポジティヴなダンス曲をたくさん演奏されてましたし、BSの番組(NHK-BS『エル・ムンド』)では「SUKIYAKI(上を向いて歩こう)」と「We Are Family」をメドレーで演奏されていて、その選曲自体からもあなたのメッセージが伝わってきました。
「ありがとう。あのね……ジャズの発祥の地であるニューオーリンズでの葬式は、昔からの伝統として悲しみを共有するところから始まり、墓地到着後にはみんなでお祝いをするんだ。これは実に素晴らしい風習だと思うし、全米で取り入れるべきだと僕は思う。大切な人を亡くしたときや大きな悲劇が起きたとき、悲しむのは簡単だ。でも悲しみを乗り越えてハッピーな気持ちにまでもっていくのはとても難しい。だけどそういう伝統や風習があったら、人はもっと早く立ち直ることができるだろう。僕もこれまでに多くの大切な人を亡くしたし、15年前にミュージック・パートナーのバーナード・エドワーズがここ日本で他界したときには、あまりに悲しみが深すぎて二度とシックの楽曲は演奏できないだろうと思った。けど、その翌年、日本のコンサート・プロモーターから来日公演の話をもらって、それから気持ちを変えることができたんだ。でもバーナードが死んですぐに"誰かがこの世を去ったときは風習として音楽を演奏することになっているんです"という主旨のライヴ・オファーをもらっていたら、僕はすぐにやったかもしれないし、悲しみから抜け出すのがもっと早かったかもしれない。僕は思うんだ。悲しみの感情は残るけど、人生はずっと続いていくってね」
――そうですね。なんていうか……あなたを見習って、日本も頑張れますよ。頑張りますよ。
「うん。日本は必ず回復すると僕は信じている。そう、バーナードが他界したあと、日本のコンサート・プロモーターからオファーの電話をもらって、僕は"誰の曲を演奏したらいい?"って訊いたんだ。"もちろんシックの曲ですよ"と言われた。そのとき我に返ったんだよ。バーナードにはもう会えないという悲しさから辛い気持ちばかりを外に発していたけど、前に進んでいかなきゃいけないことに気づいたんだ。もしバーナードがこの世に甦るなら僕はなんだってやる。バーナードと僕は血の繋がった兄弟以上に近い"本当の兄弟"のようだった。彼が亡くなったとき一緒に日本にいたのも僕だったしね。6人もの子供を残して他界した彼は、生前ずっと忙しくて、子供たちの誕生日に立ち会えたのも1回だけだと言っていた。だから僕は彼の家族に対してずっと申し訳ない気持ちでいたんだ。特に彼の長男のことはまるで自分の子供のようにも思えるから、今も面倒を見ている。うん。ニューオーリンズの風習のように、土地の文化として"幸福感"が組み込まれていたなら、もっと早く立ち直れたんだろうと今も思うけど……。でもとにかく前に進んでいくことが大事。もう一度言うけど、時間はかかっても日本は回復すると僕は信じてるよ」

続く(インタビュー第2回は5/27掲載予定)(4月15日、青山ブルーノート東京にて)
取材・文/内本順一

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Profile

ナイル・ロジャース。1952年9月19日、ニューヨーク生まれ。1977年にファンク~ダンス・バンド、シックとしてデビュー。「おしゃれフリーク」「グッド・タイムズ」という2曲の全米ナンバー1ヒットを放ったほか、多くの名曲でディスコ・ブームを牽引。ベーシストのバーナード・エドワーズとの作編曲・プロデューサー・コンビとしても評価され、シックがバックの演奏を受け持つ形でダイアナ・ロスやシスター・スレッジらの曲を手掛けてヒットさせた。1983年からしばらくはプロデューサー活動に専念し、デヴィッド・ボウイ『レッツ・ダンス』、マドンナ『ライク・ア・ヴァージン』、ミック・ジャガー『シーズ・ザ・ボス』といったアルバム及びシングルをヒットさせた上、デュラン・デュラン、フィリップ・ベイリー、アル・ジャロウ作品なども担当。1992年にはシックを再結成させ8年ぶりのアルバムをリリース。1996年には日本企画のイベント「スーパー・プロデューサー・シリーズ」のためにシックを再編して初来日し、以後、コンスタントに来日を重ねている。現在58歳。昨年、前立腺癌が発覚し、今年1月に手術をした。

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