100年 MUSIC featuring Artist

Vol.4 山下達郎

「2010年、山下達郎はなぜ武道館や
野外フェスのステージに立ったのか」

 2010年の山下達郎の動きはこれまでとは少し違っていた。非常に活発であると同時に、ファンからすれば驚きさえもあった。
 24都市39公演をまわる全国ツアー<Performance2010>が8月から10月にかけてあった。加えて、8月14日には北海道の<RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZO>に出演した。それは氏にとって実に29年ぶりとなる野外フェス出演であった。また10月30日と31日にはワーナーミュージック・ジャパンの創立40周年を記念したライブ・イベント<100年MUSIC FESTIVAL>に出演。武道館という会場で演奏することを頑なに拒んでいた氏がその場所に立ち、短い時間ながらもほかを圧倒するパフォーマンスを見せたのだ。
 筆者は<RISING〜>、<100年MUSIC〜>、そしてツアーのうちの1日と、異なるシチュエーションで3つのライブを体感したのだが、それぞれで異なる感動を得たし、(大ベテランの氏に対してこう書くのも失礼だが)改めて"ライブ・パフォーマーとしての山下達郎"の凄さを思い知った。実際、<RISING〜>や<100年MUSIC〜>で初めて氏のパフォーマンスを体験した人は大勢いたわけだが、例えば20代前半のロック好きっぽいコが「すげー!」「泣けた!」と話したりしていたことから考えても、2010年、山下達郎は多くの新しいファンを"ライブによって"獲得したのは間違いないだろう。
 では、なぜここにきて野外フェスや武道館でも演奏しようというモードになったのか。なぜ今まではやらなかったのか。今回はそのあたりの思いと、<RISING〜>に出ての感想を訊いてみた。

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――昨年は野外フェスに武道館にと、これまでならやらなかったであろう場所のライブ・イベントに出演されていました。なぜ出ようと思ったのか、今まではなぜやらなかったのか。また、やってみてどう感じられたのか。そのあたりをまず話していただけますか?
「大量動員のライブというものに、それほど興味がないんですよ。自分の音楽の質が、そういうものに向いていない。というのが全てなんですけどね。音楽評論家の人たちからは"武道館も音がよくなったから""武道館なんて今はもう小さい場所だよ"などと言われるんですけど、でも僕は何が嫌いかって、アリーナのあのパイプ椅子が嫌いなんです。あそこで3時間のライブをやるとなったら、観てる人はくたびれるでしょ? あと、評論家の人なんかは2階の1番前の特等席で観てるからそんなに感じないかもしれないけど、3階の1番後ろで観たら、どう思うかしら。だから、自分が観たくない場所ではやりたくないっていう、それだけなんですけどね。
 (竹内)まりやのライブで10年前に生まれて初めて武道館に立ちまして、どうだったかというと、やっぱり雑駁(ざっぱく)だなというのが僕の印象で。3ピースのバンドだったら、たぶん大丈夫だと思う。だけど僕の音楽はわりと内省的な、交錯するアンサンブルを聴かせなきゃならないので、そういう意味でのアンサンブルの繊細さは、3階の後ろまでは届かないんですよ。2000(人収容)の小屋の一番後ろだって、けっこうツライと思うけども、それでも今はPAがよくなってるから、その規模ならフォローアップできる。まぁでも、できることならやっぱり100人とか200人とかのライブハウスでやるほうがいいと、僕はライブハウス出のバンドあがりなのでそういうふうに思うわけです。ただ、それだとカラダが持たないっていう(笑) 。
 そもそもみんなどうして大量動員のホールでやるかっていったら、こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、要するに経済効率なんですよ。4万5千人の東京ドームは、中野サンプラザだったら23回分ですからね。だったら23回を1回でやったほうがラクだろうっていう発想だと僕は思います。それを踏まえた上で、いかにパーティとしてのクオリティを上げていくか。あれ(=東京ドームでやるような公演)は、音楽じゃないんですよ。パーティなんです。
 パフォーマンスというのは基本的に、100人の前でできれば1万人の前でもできますけど、1万人の前でできても、100人の前ではできないこともある。ローリング・ストーンズは大量動員のでっかいスタジアムでやりながら、同じツアーで必ずさびれた小さな小屋でも何回かやるでしょ? あれは彼らがそのことをわかっているから。原点を知ってるからなんですよ。芸事で一番難しいのは、1対1であってね。例えば僕があなたに1対1で歌って納得させるというのが一番難しい。もしそれができれば4万5千人の前でもできますよ。でも4万5千人を相手にやれても、1対1はやれない。それが芸事のもっとも重要な本質です。
 僕はもともとサブカルチャーというか、アンダーグラウンドなところの出なんで、別に金儲けしたかったわけでも、スターになりたかったわけでもない。自分の音楽表現というのをやりたくてバンドを始めた人間なんでね。そう考えて、例えばテレビ・メディアは使わないとか、武道館はやらないとか、2千前後のホールで続けるということをやってきた。大量動員のライブをやらない理由は、つまりそういうことなんですよ」
――野外のライブに関しては、どうですか?
「野外に関しては、これはまたそれとは別にいろいろあるんですけど、まず、いい想い出がないんです(笑)。シュガー・ベイブで野外をやってたときに、ウケなくて野次られたりしてたからっていうのがひとつ。それから、ここ10年くらいはいろんな意味でツアーが思うようにできなかったんですよ。バンドの固定メンバーを確保するのが非常に難しくてね。僕みたいなやり方でやっていると、レコード・リリースのタームが遅いので、その分ライブのスケジュール決定も遅くて、その間にいいミュージシャンをほかにとられてしまうわけです。ということで3年前にライブを再開させるにあたって、メンバーを代えて全面的にバンドを再構築し直したんですよ。それで1シーズン終えて音が落ち着いたあたりから、野外とかをやってみるのもいいかなと思い出して。30年近く僕と一緒にやってるスタッフも、夏フェスをやりたいって言うんでね。じゃあ、やるならどこがいいかって訊いたら、フェス慣れしてる周りのミュージシャンやスタッフが全員一致でライジングサンがいいと。それでライジングにしたんですよ。
 結果的にそれ、大正解でしたね。お客さんがとっても良かったし、ステージもすごくやりやすくて。で、僕はバンドあがりの人間ですけど、どっちかというとミドル・オブ・ザ・ロードのミュージシャンなので、世間一般の人から見ればロック・ミュージシャンというよりは芸能界よりのポピュラー・ミュージックのミュージシャンていうのかな、そういう具合に見られてるんだろうなと思うんだけど、僕自身はJ-ポップと呼ばれているところの人たちよりも、さっきも言ったようにサブカルチャーなところの出なので、どちらかと言うとそっちのバンドの方に共鳴する。例えば僕の聴いてきた邦楽の好みはというと、アナーキー、ブルーハーツ、イースタンユース、ザ・バースデイ、そういうのなのね。そういうのってMTVとか一部のメディア意外ではほとんど窺い知れないじゃないですか? だけど、そういうバンドが共有する独特の空気が、あんなにでかいところにあったんですよ。そのことが何より新鮮でね。で、僕の前がエレカシで、僕のあとが斉藤和義くんだったんだけど、お客さんはみんなそういう空気を共有しながら、僕のステージも楽しんでくれている。ああ、こういう場所が、あるところにはあるんだっていうのが新鮮な驚きであり、妙に安心感を持ててね。それは僕が20代前半の頃に感じてた空気と同質だったんですよ。しかもそれが老若男女、かなり広い世代に亘ってより寛容に展開されてるから、ああ、いい時代になったんだな、あるところにはあるんだなって思って。
 今回のアー写(=アーティスト写真)もね、これ(ギターの横に座って微笑んでいる写真)は3年前に撮ったものなんですけど、どっちかというといわゆるイメージ・フォトっぽいじゃないですか? だから、今回はこれ(今作のジャケに使われた、楽器による手形のオブジェの前にギターを持って立っている写真)に変えたんですよ。こっちのほうがミュージシャンっぽいでしょ? (笑)。ライジングに出なかったら、こういう発想にはならなかった。ライジングに出て、ちゃんとそういう音楽がのびのびできる場所があるところにはあるんだ、それを楽しんでいる人たちがいるところにはいるんだというのがわかったから、だったらオレもそこに立ち返ろうっていう、そういう発想でこの写真にしたんですよね。
 そういった意味で、自分の原点が確認できたところもあった。だからロック・フェスはまた機会をいただけたら出てみようかなと思ってます。ああいうお客さんだったらもう、喜んで」

取材・文/内本順一

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