100年 MUSIC featuring Artist

Vol.4 山下達郎

「Ray Of Hope」、
そのタイトルに込めた思い

 ニュー・アルバムのタイトルは、当初は『WooHoo(ウーフー)』と付けられていた。が、諸々の事情で発売が延期され、タイトルは『Ray Of Hope』と変更された。
 山下達郎が最も敬愛するのがブルーアイド・ソウルのグループ、ラスカルズであることはよく知られた話だが、白人グループでありながら黒人の解放や国家の平和を熱心に訴えつつ音楽活動を続けたそのラスカルズが1968年に放ったヒット曲のタイトルが、「A Ray Of Hope」。激動の時代に生まれた希望の歌であり、それはまさしく山下達郎のニュー・アルバムの核となった曲「希望という名の光」や「MY MORNING PRAYER」、あるいは以前の「蒼茫」(88年発表作『僕の中の少年』に収録)のメッセージにも繋がるところがある。
 「Ray Of Hope」。この言葉への思いを聞いた。

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――アルバム・タイトル『Ray Of Hope』は、ラスカルズの「A Ray Of Hope」からインスパイアされて付けられたんですよね。聴かれていたのは中学生くらいですか?
「"A Ray Of Hope"を聴いたのは高校生ですね」
――その頃から歌詞が頭に残っていた。
「ええ。ラスカルズの"A Ray Of Hope"という歌は、所謂メッセージ・ソングで、"神よ、私の生きていく限り、希望の光がある限り、私は使命を全うします"、あるいは、"拳を使わないで勝利する人間がいるんだ"っていう、当時のベトナム反戦を背景にした世相も歌っている。そのひとつ前のリリースが"People Got To Be Free"という大ヒット曲で、それはロバート・ケネディの暗殺に触発されて作られたんです。で、そのあとに"A Ray Of Hope"と"Heaven"という曲が続いて、これがメッセージ・ソング3部作なんですけど、ラスカルズはだんだんそういう歌ばかりうたうようになっていって、ついには出演者の半数が黒人じゃないコンサートには出ないって言いだした。彼らは白人バンドですから、それで現実的に南部でのコンサートができなくなって、人気が落ちていくわけですけど。この頃はブラック・ミュージックも、カーティス・メイフィールドやJ.B.が政治にコミットしていた時代で、ちょうどスライ・ストーンが登場してきたころですからね。
 "Ray Of Hope"っていうのは、素敵な言葉でね。空からパーっと光が射し込むあの感じをRay Of Hopeって言うんだそうです。さらには、人生に関しての、一筋の光、一縷の望みっていうような意味にもなる」
――聴いたその当時から、その言葉のイメージが……。
「ありました。僕は幼稚園がキリスト教だったので、"天にまします我らの父よ"とかそういうのを幼少から学んでたんですよ。日曜学校にも行ってたし。で、アメリカの音楽というのは歴史的にクリスチャニティと不可分で、ロックンロールもR&Bも、キリスト教についての知識なしには本当には理解できないんです。ラスカルズはイタリア系でカソリックなのでアメリカでは少数派に属しますが、それでもクリスチャンには変わりない。ロックンロールを聴くということは、キリスト教を学ぶということでもあるんです。そういうこともあって、宗教のなかではキリスト教に関する知識が一番身に付いてしまったので、極論すれば、僕は精神的にはいつでもクリスチャンになれる。それはともかく、そういった社会史や宗教史を抜きにしてはアメリカ音楽の本質は見えないんです。ペンテコステ派の知識なしにゴスペルは聴けないとか。そういうところで"A Ray Of Hope"の歌詞は容易に理解できましたね」
――でも、その言葉をアルバム・タイトルに持ってくるというのは、なかなか思い切った判断というか。
「そうかなあ。たしかに、3・11がなければこのタイトルにはならなかったですけどね。"希望という名の光"は、3・11のあとにラジオ・ステーションでよくかかったんです。それでこれにしたんですけど、もともとは映画の主題歌(2010年公開の映画『てぃだかんかん』)用に作った曲なのでね。あれは沖縄の珊瑚養殖に苦心した人の夫婦愛の話で。
 音楽……特に歌というものは、世に出た瞬間から自分の手元を離れて、そこに今度は人々の共同意志とか共通意識といったものが堆積されていくものなんですよね。その結果、自分の作った意図とは違う方向にひとり歩きを始めることがあって、僕にとってのその最たる例が"クリスマス・イブ"なんですけど、"希望という名の光"も3・11があったことによって当初と違う意味付けがなされることになった。それでアルバムのタイトルにもしたわけですが、アルバム制作を始めたときには、まさかこれがタイトル・ソングになるなんて夢にも思ってなかったですよ」
――この曲のアカペラがプレリュードとポストリュードとなって本編を挿むという形がとられたことで、アルバム1枚が伝えてくるメッセージ的なものがより明確になってますね。
「そうですね。最近は、特にR&Bのアルバムに、イントロとアウトロを付けたものが多い。作品に関与するプロデューサーやアレンジャーが複数の場合に、全体の統一感が希薄になるのを防ぐ目的だと思いますけど、まぁ考え方としてはそれと同じです」

取材・文/内本順一

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Ray Of Hope

山下達郎
New Album
Ray Of Hope
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