100年 MUSIC featuring Artist

Vol.4 山下達郎

ポップ職人の考える
"100年続く音楽に必要なもの"

 100年music。このウェブサイトでは、100年続く音楽とはなんなのか。100年音楽を残すにはどうするべきなのか。その際にもっとも重要な要素とはなんなのか。そのような質問を必ずさせていただいている。
 美しいメロディだと言う人がいる。歌詞に込めた強い思いだと言う人もいる。何より第一にリズムだと言った人もいる。
 山下達郎はそこのところ、どう考えているのだろうか。以下がポップ職人の、その答えである。

Page.5

  • Prev
  • Next
――100年続く音楽があるとしたら、そこには何が必要だと思われますか?
「うーん。"100年music"というコンセプトをどなたが考えたのかは知りません。そしてこのコンセプトは、音楽が記録として残されていく上での歴史的評価についてなのか、もっと内面的な心のイデアとして受け継がれる音楽理想なのかってところがいまいち明確じゃないけれど、たぶん前者だろうという前提で。理屈っぽくてすいませんけど(笑)。
 音楽が記録として保存され、後世で評価され続けるという、その評価価値を100年musicとするならば、はっきり申し上げて僕にはわかりません。レコードが出てから……ええっと、SPからだと90年ですかね。商業的に大量頒布の可能なメディアとしてのレコードが生まれてから90年くらいであって、それ以前の音楽は、音そのものの記録としては残されていない。例えばカントリーなら、マール・トラヴィスあたりからはわかるけど、それ以前は無名の炭鉱夫とかだから存在しない。ブルーズ・シンガーも、ロバート・ジョンソンが1936年とかで、そこいらからあとは音源として残ってるけど、その前はわからない。全て、そうで。
 映像系となるともっと最近でしょ、残ってるのは。歌舞伎役者なんかは、昔は映像なんかないわけですよ。落語家もない。そうすると、昔は例えば歌舞伎役者や噺家に先代がいかにうまかったかを言うにしたって、映像も録音も残ってないから、証明することはできなかった。"先代はいかに上手かったか"と年寄りにどんなに言われても、それはその人の記憶なわけで。だから"先代の○○○○に比べたらオマエの芸はまだまだ"などといくら怒られたってね。最終的には先代の贔屓が全部いなくなれば自分の天下にできる。ところが今は歌舞伎なら6代目の菊五郎さんあたりから映像がちゃんと残っているわけですよ。噺家も圓生・文楽、たくさん残ってる。そうするとそれから後の役者さんや噺家さんは、昔の名人とシビアに比較されるわけで、それってけっこうなプレッシャーになる。レッド・ツェッペリンの映像が残ってるがゆえに、後輩のバンドは、"ツェッペリンに比べりゃ~"って言われてしまうわけでね。でも、もし記録が残ってなかったらどうなのか。ね?
 だから全てのものが記録として残ることが、果たしていいことなのかどうなのか。観阿弥・世阿弥の時代はそんなのなかったし、鏡すらろくになかった時代に一体どうやって型を作って、それがいいのか悪いのかを自分で判断できて、演技ができたのか。どこかで人の意見を仰ぐ必要があったでしょう。
 でも今は、ミュージシャンはレコードで音を繰り返し聴いてコピーし、役者は自分の演技をビデオで観てチェックして、っていうふうにやるわけで。映画監督だったらホームビデオでヒッチコックの全シーンを細かく分析して、参考にするとかね。でも昔はね、笠原和夫っていう"仁義なき戦い"の脚本を書いた人みたいに、映画館に何度も通って映画の全シーンのメモをとって、それで脚本のコツを研究したんですよ。今とは全然違う。今は脚本集は出てるし、ビデオで何回も観れるし。そういうところでクリエイターの質も変わってきてる。
 だから、原点に戻って、100年残ることが果たして本当にいいのかどうかっていう根本的な問いかけが僕にはあります。
 それを踏まえた上で100年残る音楽に何が必要かって言ったら、僕はそういうあいまいな記憶による"伝承"の余地をある程度残すべきだと考える。観念的に受け継いでいく部分ってこと。前の価値との唯物的比較じゃなくてね。ビートルズよりすごいとか、ストーンズよりすごいとか、マイケル・ジャクソンよりすごいとか、そういうマーケティング的発想じゃなくて、ひとりひとりの心の中でどういう価値があるかっていうこと。
 ただ、それは平穏な時間が長く続かないとなかなか難しい。ロックンロールが60年も続いているのは、その間アメリカ国内で大きな戦乱や動乱がなかったことと、アメリカが世界経済の中心で大規模な文化輸出が可能だったからで。それでもベトナム戦争などで大きな価値の変動は何度も起きている。日本だって戦争に負けてアメリカに占領されてなかったらロックンロールは入ってこなかった。逆に言えば、日本文化の継承はそこで大きく途切れてしまった。でもアメリカから入ってきた文化がたまたま良かったおかげで、僕なんかはロックンロールの道に没入してしまった。
 僕は美空ひばりよりもエヴァリー・ブラザースの方が好きなんだけど、でもだからといって、僕らがロックンロールを聴き始めた動機は、あくまで受動的なもので、政治力学・経済力学からのものでしかない。戦争に負けて駐留軍がアメリカの音楽をかけて、それに戦後の若い世代が感化された。その後高度成長で国が豊かになって、レコード産業も興隆した。東京生まれの僕なんかはFEN(米軍極東放送)を浴びて育って、それによってロックンロールを否応なしに注入された。注入なんですよ、これって。
 でも、それは僕にとっては文句なしに素晴らしいものだった。僕はロックンロールを聴き始めて45年になるけど、それが都々逸とか小唄じゃなくてよかった、正解だったと心底思ってる人間で。でもそれはなぜなのか。なんなのか。そう考えたときに100年続く音楽のファクターとは何かっていう疑問にも繋がっていくわけです。
 ナイル・ロジャースが"重要なのはリズムだ。ダンスだ"って言うのは(*100年music /featuring Artist Nile Rodgers 第3回参照)、それは彼がアフリカン・アメリカンとしてのルーツまで遡ったところでの舞踏の本質というものを知っているから言えるわけで。僕がそういう答え方をするとなると、やっぱり伝承ということの大事さになる。
 で、例えばビートルズを伝承するなら、ビートルズがヒルトンに何日泊ったとか誰と会ったとか、そんな話じゃなくて、もっとちゃんとした、音楽としての構築の必然みたいなことを伝えていかなきゃ意味がない。音楽としての批評性を含んだ、あの時代のなかでの社会学的な考察。健全な考察。例えばホリーズのミックスとビートルズのミックスはどうして違うんだっていうようなレベルの話だってきちっと伝承していくこと。そういうことだと思います。たぶん無理だろうけど(笑)。
 だから、カリスマ化とか教条化じゃない意味での音楽のヒストリーがちゃんと作れたら、100年続く音楽は生まれるでしょう。そうでなければ美空ひばりや石原裕次郎から1歩も出ることのない、偶像神話・伝説の昭和史文化の延長で終わるでしょう。今の時代は教条化の美学だからね。たとえば"マイケル・ジャクソンを語ること"の美学だから。だけどマイケル・ジャクソンを"語らない"という美学からスタートする歴史もある。そう思います。幻想が100年続くのでは意味がないから。
 スピリットが健全に受け継がれる。それはメディアじゃなくて、人々の心のレベルで受け継がれるというようなことじゃないと意味がない。芸術とか文化っていうのは、そういう形で続いてほしいって僕は思っている。人の記憶は人に受け継がれるのが本来なので。
 人間っていうのは不思議な動物で、100年なんていう自分じゃ生きられない時間をセンチュリーなんていう単位で表している。そういう感覚のなかで我々が受け継ぐべきものは、ほんの30年前くらいの映像じゃなくて、はるか何百年も前のシェイクスピアだったりミケランジェロだったり観阿弥・世阿弥だったり、そういうものかもしれない。
 といった感じでまぁ、簡単に5分・10分で語れる話じゃないんですよ、実は(笑)。100年続く音楽とは何かって聞かれて、言えることはこんなところかなぁ。ダラダラと長い割にまとまりがなくてすいませんね(笑)。だからナイル・ロジャースのようにね、"リズムだ"とか"ダンスだ"とか単純明快に一言で言えるような文化を我々も持ちたかった、と(笑)」
――では、単純な話、100年続くくらいの音楽を作りたいというような気持ちはありますか?
「僕はそういうことが自分にできるとは1度も思ったことがありません。僕は所詮、この国の文化の中では傍流であって、主流ではないですから。この国の文化潮流の中で、僕は自分をあくまで異端だと位置付けて36年続けてきたので。それでもまぁ世の中は広いので、自分の音楽を認めてくれる人は何万か何十万かはいてくれるだろうっていう。ラジオのレギュラーにしても、基本的にそのスタンスでしかやってない。だからこれ以上拡大する必要性も感じないし。"もっともっとたくさんの人にあなたの音楽を聴かせないと"って言われても、ごめんなさいとしか言えない。1日1組しか客をとらないレストランみたいな発想でね。こういうことは、わかる人にはわかってもらえるだろうし、わからない人には永遠に通じないだろうし。そう思ってやってきました。結局、僕の目指してるものは、ビジネスとしてのミュージックとは違うものなんだと思っているんです」

取材・文/内本順一

  • Prev
  • Next
Ray Of Hope

山下達郎
New Album
Ray Of Hope
2011.8.10 on sale


初回限定盤:ボーナスディスク「JOY 1.5」付き
¥3,333(本体)+税 WPCL-10964/5
通常盤:
¥3,000(本体)+税 WPCL-10966

「Ray Of Hope」スペシャルサイト
http://wmg.jp/tatsuro/

全国ホールツアー決定!
http://www.tatsuro.co.jp

featuring Artist Archives
COMING SOON
VOL.6 SAM MOORE
VOL.5 BONNIE PINK
VOL.4 山下達郎
VOL.3 Charice
VOL.2 Nile Rodgers
VOL.1 Superfly