シンガーとしての魅力が伝わるセルフ・リメイク作
「今回は歌手になりたかったんです!」
間もなくリリースされる、初のセルフ・リメイク・アルバム『Back Room』。近年のツアーのバンマスでもある鈴木正人(LITTLE CREATURES)がプロデュースを担当し、アコースティックなアレンジを基調にしながら名プレイヤーたちと共に録音されたこのアルバムは、BONNIE PINKの"シンガーとしての魅力"が十二分に伝わってくる内容でもある。
前回はこのようなアルバムを作った動機をたっぷり訊いたが、今回は選曲のポイントや、アコースティック・アレンジで作ろうと思った理由などを語ってもらった。
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- ――制作にあたって、始めにしたのは選曲ですか?
- 「そうです。候補が20曲くらいあって、そこから半分くらいに減らして。アレンジを考えながら、似たアプローチになりそうなものは省いたりしていきました」
- ――始めにこの企画を聞いたとき、"隠れた名曲集"みたいなものになるのかと思ったんですよ。隠れた名曲にもう一度スポットを当てようという目的があるのかな、と。でもフタをあけたら、シングル曲や代表曲が大半だったので、ちょっと意外だったんですけど。
- 「原曲が広く知られているもののほうが、新しくなったのを聴いたときに、違いがわかって面白いんじゃないかっていうスタッフの声があって、私もそう思ったんですよ。形ができあがっていて、聴き手のなかでイメージがついちゃっている曲をどういうふうに変えるか。それは、あんまり知られてない曲をカヴァーするよりもハードルの高い作業ですけど、そこはちゃんと立ち向かっておくべきなんじゃないかと思ったし。ということで、シングル曲とかライブの定番曲を中心に選びつつ、個人的にどうしてもやりたかった曲も加えて構成したんです」
- ――プロデュースを鈴木正人さんに依頼するということは早くから決めていたんですか?
- 「はい。ツアーでバンマスをやってもらってるし、この前のツアーの評判もよかったので。"今回のレコーディングで録った音をそのままライブでも再現できたら美しいよね"って話もしていて、じゃあ鈴木さんにお願いしようと。鈴木さん、あの物腰の柔らかさとは裏腹に、時間がないなかでも絶対に妥協しないで、ものすごい熱量で頑張ってくれる人なんですよ。付き合いもまぁ長いと言えば長いんですけど、アルバム1枚ガッツリ作ることはやってなかったので、私も向き合って一緒に作りたいという気持ちがあって」
- ――やっぱり去年のツアーの手応えが相当大きかったんでしょうね。
- 「そうですね。私も歌いながら演奏を聴いていて、すごく呼吸が合ってるのを感じていたから。鈴木さん、ひとつとしてかっこ悪い音を出さないんですよ。本当に洗練されてる。で、楽器もなんでもできちゃうので、アレンジの話をしても理解が早いんですよね。例えば"Last Kiss"はハープを入れたい、とか、"Paradiddle-free"はほぼ声だけで録りたい、テンポを落として録りたい、みたいなアイディアを私が伝えると、鈴木さんがそれを汲んだアレンジを作って投げ返してくださるんですけど、それがもう、ものすごく完成されていて。だからそのあとの現場でのやり取りもすごくスムーズに進むんです」
- ――ある意味、鈴木さんとのコラボレーション・アルバムと言っていいくらい、ガッツリ組んで作ったアルバムですよね。
- 「そうですね。"Paradiddle-free"はその極みで、私の声と鈴木さんのウッドベースだけで成り立っていたりしますから。全体的にも、鈴木さんの頭脳と、プレイヤーの個性と、私の今の気分で成り立っているアルバムって言えるかな」
- ――こんなふうにひとりのプロデューサーとガッツリ組んでアルバム1枚作るのは珍しい。
- 「うん。だから新鮮でした。アルバム全曲を同じスタジオで録るってことも新鮮だったし、みんなでゴハンを囲むみたいに輪になって録るというようなこともしばらくやってなかったから」
- ――アコースティック主体で、っていうのも決めてたことだったんですか?
- 「そうですね。原点に立ち帰るというか。あと、節電っていう意識も頭の片隅にありました。もちろん音楽を作れば電気は使うことになるので限界があるんですけど、いろんな音を盛って盛って……っていうんじゃなくて、ライブっぽく"せーの"で録る方向でいきたいって気持ちが最初からあって」
- ――"3・11以降"の気分として、やんちゃに弾けた音ではなく、大人っぽい感じで作りたいという気持ちもあったのでは?
- 「それもありました。ダーンといくんじゃなくて、水が静かに浸透していくような感じの音が欲しいって気持ちがあった。それには鈴木さんが合うなと思ったし。これをトーレ(・ヨハンセン)とやるとなると、エネルギーが倍ぐらい必要になる(笑) 」
- ――で、完成したものを聴いて僕が思ったのは、これはヴォーカル・アルバムだなと。アコースティックを基調にしているだけあって、サウンド面に凝ったオリジナル・アルバムよりもBONNIEのヴォーカルの魅力がハッキリと伝わってくるんですよ。
- 「あ、ほんとですか? よかった(笑)」
- ――歌声の表情がいつにも増して豊かに聴こえてくるというか。
- 「今回、私、いっさい楽器を演奏してないんですよ。それもあって全てのエネルギーを歌に注いだので、それが大きいのかも。ほかの(オリジナルの)アルバムだと、サウンドのことから何から全体を自分で見た上でヴォーカルも録るわけですけど、今回はサウンドや演奏に関しては鈴木さんとプレイヤーのみなさんにかなりお任せしちゃって、私は歌うことだけを考えていたので、そういう意味ではラクでしたね。"ああ、いい演奏だな~"って思いながら歌えたし」
- ――純粋に歌手になれたわけですね。
- 「そうそう。歌手になれるんです。歌手になりたかったんです、今回は(笑) いつもみたいにサウンドに対して細かいことを言わず、その演奏に身を委ねて歌うっていう」
- ――シンガーとしてのBONNIEのよさが十二分に味わえるアルバムだと言ってもいいと思いますよ。
- 「ほんとですか? う~ん、でもまだまだ私、シンガーとしては幅が狭いなと思ってて」
- ――ありゃ。
- 「なんていうか、今まで作詞・作曲・歌唱の三つでバランスを取ってきてたので、歌唱の部分だけにスポットライトが当てられると意外と恥ずかしくなっちゃうところがあって。私、そんなたいしたカード持ってないです、みたいな(苦笑)」
- ――いやいや、そんなことないですって。
- 「まぁ今回作り終えて、まだまだシンガーとしてもできることはいろいろあるんだなって思ったところはありますね。シンガーとしても、もっと限界に挑戦していけば、それによって楽曲の幅がまた広がるところもあるんでしょうし」
- ――というか、限界に挑戦みたいに難しく考えないくらいのほうがいいと思う。このアルバムはシンガーとして気持ちよく演奏に乗っていって、だからこそ素晴らしいヴォーカル・アルバムになっているんだと思うし。
- 「いや~、なんかね、これじゃ前とたいして変わってないんじゃないかとか、もっと変えなきゃとか、すぐ思っちゃう性格なんですよね。うーん。でも、そうですよね。過去の曲を聴き返してみても、考えすぎないで歌ってるほうがよかったりもしますからね。うん」
- ――何しろこのアルバムは、歌と演奏の味わいをじっくり堪能できる1枚だと思います。
- 「いいオーディオで聴いていただければ、って感じですね。ミックスもすごくいいし、大きい音で聴いてもらえれば、音が溢れだしてくる感じがあって、より気持ちいいと思いますよ。もしくはいろんなヘッドホンで聴いていただくとか」
- ――あたかも目の前でライブが行なわれているような感覚が味わえるという。
- 「はい」
取材・文/内本順一
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BONNIE PINK
New Album
「Back Room -BONNIE PINK Remakes-」
2011.09.21 Release
初回限定盤(CD+DVD)
¥2,857(本体)+税 / WPZL-30316/7
通常盤(CD)
¥2,381(本体)+税 / WPCL-10992
BONNIE PINK、初のセルフリメイクアルバム「Heaven's Kitchen」「Last Kiss」「A Perfect Sky」等数々のヒット曲をアコースティックアレンジで新録したBONNIE PINK初のセルフリメイクアルバム。
新曲1曲を含む全10曲収録。
初回限定盤にはスタジオライブ4曲を含むレコーディング・ドキュメンタリー映像を収録したDVD付。